Trip
Issue : 05
MAKINA NAKIJIN | 好きを眺め自然と暮らす贅沢を
日本中の宿から“泊まるように暮らす”ヒントを紐解く本連載。
第一弾は、沖縄県今帰仁村の手付かずの自然に溶け込むように佇むプライベートヴィラ「MAKINA NAKIJIN」を訪問。
建築とインテリアに込められたオーナーの思いから、暮らしのヒントを紐解きます。
玄関も、扉もない、自然に溶け込むプライベートヴィラ
この日訪れたのは、沖縄の今帰仁村(なきじんそん)にあるプライベートヴィラ「MAKINA NAKIJIN」。
森羅万象が織りなす美しさを全身で享受する、1日1組限定のプライベートヴィラとして、2022年3月にオープンしました。
沖縄県北部に位置する今帰仁村は、ショッピングモールも、ファミレスもない、沖縄の中でも特に手付かずの自然や昔ながらの風景が残る場所。
そんな村の中でも海に面した一角に、まるで自然の一部に溶け込んでいるかのように、MAKINA NAKIJINは建っています。
生い茂る南国の草花の間をくぐり抜けるように細い道を抜けると私たちを出迎えるのは、扉も玄関もない、美しいエントランス。
白セメントに海の砂を混ぜて研磨したというモルタルの壁には、時間ごとに変化する光と影が映り込み、揺れる植物たちに、静かに歓迎されているよう。歩みを進めると、境界線のない開放的な空間が広がり、ここが外なのか中なのかわからなくなってしまうほど。
高台から見えるのは、今帰仁村の手付かずの自然や海。移り変わる広い空と風が建物に映り込み、光と影になる美しさは、まさに一度見たら忘れられない風景です。
もともとはご自身のお家として建てられたことから、二つの寝室や、十分に料理を楽しめるキッチン、家族で食事を囲めるダイニングスペースも完備。それぞれの部屋には、まるで “額縁” のように景色を美しく切りとる窓が特徴的。窓を開ければ、奥まった部屋すべてに、新鮮な心地よい風が通りぬけるように設計されています。
一つ一つの部屋に並ぶのは、オーナーが選んだというセンスの光るインテリア。眺めているだけで、たくさんのヒントに出会えます。
ここからはそんなMAKINA NAKIJINの空間づくりから学べる、暮らしのヒントをご紹介します。
お気に入りを“眺める”ことの喜び
奥まったリビングスペースのソファに腰掛けると、窓からのぞむ風景の真ん中には、ポツンと置かれたチーク材の椅子。
知る人ぞ知る、1950年頃にインドで手掛けられた「ピエール・ジャンヌレ」の椅子です。
10代の頃オーナーは、部屋の一角にお気に入りの椅子を置いて、たちまち楽しい気分になったそう。その感覚に魅せられて、椅子だけでなく建築という世界をこよなく愛するようになったオーナーが、特に思い入れを感じているもの。それが、ピエール・ジャンヌレでした。
椅子であり、空間を彩るインテリアであり、主役としての存在感を放つこの椅子なくして、MAKINA NAKIJINは語れません。
窓の枠は、椅子と同じチーク材。ダイニングテーブルは、椅子に合わせて建築家へ頼んで作ってもらったというオリジナルの造作家具。よく見ると椅子の脚のカーブに合わせ、テーブルの脚もカーブを描いています。
お気に入りを飾るだけではなく、美しく魅せ、美しく使うために、空間をつくる。
お気に入りを“眺める”ことの喜びが、あなたの暮らしをより豊かにしてくれるかもしれません。
本当の贅沢は、自然に合わせて暮らせること
旅に出たとき、天気予報が雨だったらショックだし、嫌な気持ちになるものです。そんな風に、人々にとって、雨は時にネガティブで、厄介なもの。特に沖縄は、よく雨が降って、またすぐやんで、また雨が降る。天気予報だって信じられないくらい、コロコロと天気が変わる、そんな場所です。
ですが、MAKINA NAKIJINでは、あえて雨を排水する雨樋が作られていません。その代わり、屋根がちょっと斜めに傾いていて、雨水が石の上に落ちるように設計されています。雨が降れば、椅子に座って、雨音と共に水の表情を見つめる時間もいいもの。あえて厄介がくれる恵みを楽しんでみるのです。
天気がいい日は、プールの横でご飯を食べたり、お酒を飲んだり。季節によって、暖炉の場所を変えたり、椅子の場所を変えたりするだけで、見える景色が全く変わる。自然に誘発されて、暮らしに色が出る。自然が主役で、人間はそれに合わせる。本当の贅沢ってこういうことかもしれません。
yado's pick up item
MAKINA NAKIJINの空間を彩るインテリアの中で、今回注目したのは、今帰仁村に工房を構える陶芸家・小泊 良(こどまり りょう)さんのユニークな器。この器、何かに似ていると思いませんか。そうです、オーナーがこよなく愛する、ピエール・ジャンヌレの椅子。
この器は、何とも大切そうに、ジャンヌレを眺める特等席の横に飾ってありました。
まずは、自分の偏愛を知り、土地の風土や美しさを知ること。
そんな「知る」という行為から、本当の贅沢に満ちた豊かな暮らしがはじまるのかもしれません。
Editor’s Voice
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オーナーの自分の家づくりから生まれたMAKINA NAKIJIN。居ないときは貸して、他の人と自分の「好き」をシェアをする。そんな前提で作られた建築だからこそ、家でもない、宿らしくもない、特別な風が吹いているんだと思う。まるで家が働いている、家が人をもてなしている。そんな居心地のいい場所は、ずっと自分が住んでいるだけじゃない家、という設定からできているのがおもしろい。
Maya Mizuta (writer)
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雲が出ればひんやりと床が冷たくなり、太陽が出れば美しい影と共に体も自然と暖まる。音楽をかけなくたって、虫の声や風の音、自然には心地よい音が溢れている。暮らしの心地よさを求めて新しいものを次々と手にしてしまう私にとって、MAKINA NAKIJINは「足るを知る」場所だった。自分にとっての本当の贅沢ってなんだろう?そんな問いに立ち止まるところから、暮らしづくりは始まるのかもしれない。
Chiaki Miyazawa (yado)
Staff Credit
Written by Maya Mizuta
Photographed by Kazumasa Harada
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