Interview
Issue : 04
TODAYFULディレクター・吉田怜香 | 心地良いものに囲まれて、日常と非日常の境界線を曖昧に
“泊まるように暮らす”人に聞く、暮らしの哲学。これまで22カ国43都市を訪れてきたという彼女のご自宅で、泊まるように暮らすためのヒントを伺いました。
Profile
吉田怜香
1987年、兵庫県生まれ。ファッションブランド「TODAYFUL」デザイナー、ディレクター。東京・大阪・福岡に、コンセプトショップ「Life’s」を展開。これまでに、自身のスタイルブックを5冊刊行し、ファッションのみならず洗練されたライフスタイルは多くの女性に支持されている。プライベートでは一児の母であり、漫画好き。
“泊まるように暮らす” 人に聞く、暮らしの哲学。vol.2は「TODAYFUL」デザイナー・吉田怜香さん。
彼女が、ご主人と2歳の娘さん、愛犬2匹の5人家族で暮らすのは、リビング・ダイニング・サンルームの3つのエリアがひと続きになった、130平米の広々としたヴィンテージマンション。そんなご自宅での暮らしに、彼女は旅から得たインスピレーションをどう生かしているのか。こだわりの詰まったご自宅のインテリアと共に、“泊まるように暮らす” ためのヒントを伺いました。
日常と変わらない旅先での暮らし
ーー吉田さんはこれまでたくさん旅に出かけていますが、旅先ではどのように過ごしますか?
もともと仕事での出張も多かったですし、友達ともよく旅行に行っています。コロナ前は子供もまだ生まれていなかったので、海外にも気軽に行ってました。海外では、やはり観光メインにはなりますが、ホテルの部屋ではお香を焚いたり、空き瓶に現地で買った花を飾ったりして、日常と変わらない自分好みの空間にするのが好きです。
ーーここ最近の旅行で思い出に残っているところはありますか。
コロナ以後はめっきり国内になりました。国内だと泊まりたかったホテルを軸に旅を決めたりするので、なおさらお部屋で過ごすことが多くて。この空間で漫画読むの贅沢だろうな〜みたいな基準で選んだりします(笑)。都内のホテルに泊まることもあるし、最近だと沖縄にある「MAKINA NAKIJIN」というヴィラは良かったですね。真冬に北海道にある「坐忘林」に泊まった時には、窓の外の雪景色が違う世界みたいで、海外旅行した気分になれました。
ーー旅先でのルーティンがあれば教えてください。
キャリーケースがあれば、漫画や小説などの本を数冊かならず持っていきます。鞄だけの時は重くなるので、できるだけ1冊で長持ちする本にします(笑)。現地では行きたいお店を回りつつ、フラフラ歩きながら過ごし方を考えます。あとは、旅行中に素敵な空間やお店の写真をよく撮っていて、帰ってきてからのインテリアの参考にすることも多いです。
ーーまもなくロサンゼルスへ行くと伺いました。(※取材時は渡米前)
そうなんです。リサーチという名の旅行です(笑)。今回は「イームズハウス」というデザイナー・イームズ夫妻の自邸や「シンドラー・ハウス」という建築家の自邸など、建築もたくさん見たいなと思っていて。数年前にメキシコで見た「ルイス・バラガン邸」がとても良くて、それから旅先でも積極的に建築を見て、自宅のインスピレーションにつなげたいなと思っています。
偶然出合ったインテリアをミックス
多国籍で、抜け感のある綺麗すぎない空間に
ーーこれまでの旅のインスピレーションは、どのようにお家に生かされていますか?
やっぱり、取り入れたいのは空気感ですよね。この家はどこか特定のホテルを真似しているわけではなくて、世界中のいろんな空気感をミックスしています。リビングにあるダイニングテーブルや照明、ガラスのテーブルなどの大きな家具はほとんどLAのもので、同じ旅行の時に購入したものなんですが、それ以外に和っぽいものも結構あるし、もっとラフなものもあって、自分らしいバランスが取れている気がします。壁の棚には韓国、メキシコ、ギリシャ、LAといろんな国の花瓶やオブジェを飾ることで、自分らしい空間をつくっています。
ーーいろんな国のインテリアをミックスすると雑然としてしまいがちですが、なにか工夫はありますか?
うちの場合は、カラフルなものがないんですよね。落ち着いた色合いで、黒・白・茶色で統一をしています。どうしてもほしいオブジェが黄色だった時に、スプレーで黒く塗り直したこともあります。ビンテージアイテムも好きなので、古いものから新しいものまでごちゃ混ぜになっていますが、自分が好みのものを選ぶと、国が違っても雰囲気は似通ってくるのかもしれないです。
ーーたしかに、日本的なアイテムもうまく融合していますよね。
食器や籠もたくさんあるし、サンルームには松本の民藝の椅子がジャンヌレと並んでいたり。リビングのLAのダイニングテーブルの上にあるのは、京都で購入したピーター・アイビーの照明です。アイテムを綺麗に整えすぎるのが苦手だから、ミックスすることでほどよいぬけ感が出せるのかもしれません。生活感は出さないようにしつつも、いい意味で綺麗すぎない空間を意識しています。
無駄な買い物はせず、出合いを待つ
ーー買い物をする時には、先にレイアウトを考えますか?
買う前には、かならず置く場所を考えます。たとえば、食器なんかは黒・白・茶色で棚を分けて飾っていて。もし黒いお皿の棚がいっぱいになったら、旅先でいくら黒いお皿を見つけても買わないこともあります。今あるお皿を超えるものに出合ったら、どれと交換して置こうかというふうに考えるんです。グラスに関しても、透明なものが好きなので、色グラスで気に入ったものがあっても買わないとか。ただ無駄には買わないようにしています。
ーーインテリアとは旅先で偶然出合うことが多いんですか?
そうですね、部屋にある7割が偶然出合ったものかも。あんまり探したくないんですよね。出合いを待って、急がない。普通は引っ越してすぐに家具をそろえようとしますが、ひたすら出合うまで待ちます。それまでの代わりのものを無理に買うくらいなら、床に座っていればいいかって(笑)。たとえ100円だったとしても妥協してものを買うのが嫌だから、たとえばハサミがなくてもコンビニで適当に買うくらいならアマゾンでお気に入りを探して翌日まで使わない。身の回りにあって心地の良いものだけに囲まれたいんです。
心地よい暮らしのために
日常と非日常の境界線を曖昧にしていく
ーーそんな素敵な生活を実現している吉田さんですが、yadoのコンセプトである「泊まるように暮らす」と聞いて、どんなことを思い浮かべましたか?
余白がある感じがしますよね。旅に行った時って、ゆっくりしたいじゃないですか。日常で落ち着けないからこそ、旅先では非日常を味わおう、みたいな。そんな日常と非日常の境界線をもっと曖昧にしていくというか、家でもホテルのような余白を持って暮らせるといいなと思います。
ーー日常と非日常の境界線をなくしていくためには、どうすればいいと思いますか?
家は生活感のあるところで、ホテルでの時間が非日常だ、みたいな棲み分けをなくしたいですよね。それって慣れだと思うんです。洋服でも同じなんですけど、子育てをしているとどうしてもお気に入りの高い服を日常に着るのがもったいない、という声をよく聞きます。気持ちはわかります。でもとっておきだからこそ、普段からお気に入りの服に身を包んだ自分で過ごしてほしい。やってみると慣れるし、意外と変わらないことに気がつくはずです。だから、素敵なホテルの暮らしを贅沢だと思わずに、少しずつ日常に取り入れてみればいいんじゃないでしょうか。
ーーでは最後に、吉田さんらしい “泊まるように暮らす” ためのヒントを教えてください。
たとえば、作家さんの器は割るのが怖くて使えないとか、そういうのも背伸びして生活に取り入れて、慣れていくことが近道だって思います。トーストだって素敵なお皿で食べた方が美味しいし、お皿だって生きてくる。私の場合はもともとそうするのが好きだから気にせず好きなものを使っていますが、なんとなく気恥ずかしいと思う方もいらっしゃるかもしれません。でも、そういう時間をちょっとずつ生活に取り入れていくことで、日常と非日常の境界が曖昧になって、より心地良い生活に近づけるんじゃないでしょうか。
yado's pick up item
北海道の「坐忘林」で出合い、一目惚れしたという「我戸幹男商店」の木製のお碗「TSUMUGI」(¥5,500 / 税込)。
ひとつひとつのフォルムには古来から受け継がれてきた名称があり、自分の手にしっくり来る形を選ぶことも楽しめる要素の一つ。
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Self Photo8
吉田怜香が撮る
暮らしの1コマ
Editor’s Voice
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旅が贅沢で、日常は我慢だなんて誰が決めたのだろう。旅先で見つけた素敵な逸品をいくら持ち帰ったところで使わなければ何の意味もない。大切にしまうんじゃなくて、日常の中に旅先の非日常を溶かしていく。旅先に限らず、日常の中で出会った素敵なものも少しずつ生活に取り入れてみれば、日常の中で旅をするような感覚にだってなれるのかもしれない。
Takahiro Sumita (writer)
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印象的だったのは「ホテルの暮らしを贅沢だと思わず、背伸びして日常に取り入れてみる」という言葉。例えば、そこにある家具のレイアウトを気にしてみるとか、使われている小物を真似てみるとか。非日常を味わうためだけではなく、日常のヒントを探しにいく。そんな滞在の仕方を、早速実践してみたい。
Chiaki Miyazawa (yado)
Staff Credit
Written by Takahiro Sumita
Photographed by Eichi Tano