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Issue : 48
yado local JPが表現する"泊まるように暮らす"家。古さと新しさをマンションの1室に。
新鮮な高揚と圧倒的なくつろぎが同居する旅先のように心地よい時間を、日常にも——そんな思想をもとに世界各地の宿に学び、独自の視点で再編集した住宅デザイン「yado local」。このyado localから新しい和のかたちを表現して生まれたのが「yado local JP(以下、yado JP)」だ。今回は「yado JP」のエッセンスをリノベーションで再現した事例を紹介する。
旅先で得られる感動や心地よさを
家というフォーマットで再現
“泊まるように暮らす”というコンセプトを軸に、旅先で得られる感覚を住宅デザインへと落とし込んだ「yado house」。
ここにはライフスタイルに合わせた3つのハウスレーベルが存在する。世界中の宿からインスピレーションを受けた住宅デザイン「yado local」、全国各地にある美しいロケーションに“旅するように”建設した「yado journey」、そして予約の取れないホテルやライフスタイルブランドとコラボレーションした住宅デザイン「yado gallery」だ。
旅先で得られる感動や心地よさはいかに生まれてくるのか……「yado house」では、旅という経験を分解し、5つの設計ルールを設けている。
日本に息づく暮らしや風景を
デザインに落とし込んだ「yado JP」
世界各地、それぞれの土地に流れる空気感や街並みを解釈し、住宅デザインへと昇華させている「yado local」。
第1弾の「yado JP」は、日本の伝統的な文化や美意識を再編集して生まれたモデルだ。
扉を開けた瞬間に広がるダイニングとしての土間、季節の移ろいを伝える借景など、日本に息づく暮らしや風景を住宅デザインとして表現している。
「yado JP」のデザインを踏襲した
マンションリノベーション
今回、「yado JP」のデザインを踏襲して、マンションの一室をリノベーション。どのように新しい和の空間を構築していったのか。そのエッセンスを、5つの設計ルールとともに紹介したい。
01 - 独自の和洋折衷で生み出すリズム
いかにも真新しいものはどこか落ち着かない。しかし、古いだけでも心は躍らない。古さと新しさが程よいバランスで混ざっている空間にこそ、人は惹きつけられる。「yado JP」の居心地の良さは、新旧いずれのニュアンスを取り込んでいることに根ざしているのだろう。
今回のマンションリノベーションでは、名建築家・前川國男が自ら設計した自邸をイメージソースに、時代を超えて人々の心を掴み続ける建築を再現している。
ともすれば集合住宅は均質化してしまいやすい。だが、この一室に足を踏み入れると、懐かしさの中に洗練された雰囲気を纏った無二の空間が待っている。住宅街の中、窓を一枚隔てた向こう側に、そんな世界が広がっているのだ。
そして、部屋の中にいると、その「窓」こそが空間に個性を宿すピースとなっていることがわかる。独自の和洋折衷を表現するため、リビングのサッシを障子紙からラタンに素材をアレンジ。日本的な趣とモダンな雰囲気を両立させている。
02 - 安易な白を選択しない色の妙
カラートーンを上げると、空間はライトでカジュアルな印象に傾いてしまう。
旅先で得られる特別な感覚を味わうには、彩度を落とし、シックで落ち着いた印象に仕上げることも重要だ。
今回のマンションリノベーションでは、もともとクロスだった壁の上に、彩度を低く抑えたグレージュの塗料を用いて左官で仕上げている。
感性が研ぎ澄まされる中、目に映るものが豊かな刺激となって身体に染み入っていく……そんな特別な感覚が、ここにはある。
03 - 収納の集約による空間の余白
この一室に隠れている、空間に余白を生み出すさまざまな工夫。ファミリークロークは、そのひとつだ。家にあるモノを一元的に収納できるスペースを設けることで、生活空間にゆとりが生まれている。
異なる部屋でデザインや素材を統一していることもさりげないポイントである。そうすることで部屋同士に連続性が生まれ、部屋を移動しても一続きの空間になる。今回のマンションリノベーションでは、リビングとダイニングで壁の素材とデザインを統一することで、物理的には仕切られていても、空間のつながりやゆとりが感じられるようになっている。
他にも、ダイニングの壁面が隠し扉になっており、裏側に収納スペースが設けられていたり、造作ソファの下部にスライド式の収納スペースが隠れていたりと、収納スペース確保の細やかな工夫が随所に散りばめられている。
04 - 生活感というノイズをとりはらう
旅先で得られる高揚感を再現するために生活感はノイズとなる。
たとえば、スイッチやインターホン。これらの設備はダイニングの隠し扉の裏側に集約することで、表には見えないように工夫されている。
もちろん、生活動線を考えてスイッチを表に出しておきたい箇所もある。その場合は、設置位置を低く設定することで、視線のラインから外すことができる。重心を低くしたことで安心感・安定感のある印象をもたらす効果もあるのだ。
生活感に覆われることなく、ただ美しい記憶が刻まれていく——そんな旅のひとときのような時間が流れ続ける場になるだろう。
05 - ゆらりと眺められる風景をつくる
ふと考え事をしたり、お茶を片手にくつろいだり。何気ない時間も、旅先だと特別なものに変わる。
それはゆらりと眺めていられる、新鮮な風景があるからだ。
この一室では、手仕事によって仕上げられた左官仕上げの壁が、ラタンの障子を通して窓から入るやわらかな光に映し出され、なんとも言えない表情をつくっている。不規則な凹凸によって生まれる微妙な陰影は、どこを切り取っても同じものはない。
マンションだと窓の位置や数が限られてしまうことも多いが、風景を切り取ったアートを飾ると、視界を豊かにすることができる。壁面と同様に彩度を落としてつくった青焼きの写真は、空間に馴染みつつ、新鮮な風景をもたらしてくれる。
旅先で得られる、高揚感とくつろぎ。それを日本の美意識で解釈・再編集し、住宅デザインに落とし込めば、マンションの一室も特別な感覚を味わえる場所になる。
「yado JP」には、まるで“泊まるように”豊かな時間が流れている。
Staff Credit
Written by Takumi Kobayashi
Photographed by toha, Kenta Hasegawa / OFP CO.,Ltd
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