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Issue : 46

千年オリーブテラス for your wellness|千年先のオリーヴの森を夢見て。自然と島人と旅人の循環型ウェルネスガーデン

小豆島の「オリーヴ兄弟」が運営する、千年先を見越した千年続くオリーヴの森プロジェクト。その先駆けとして建設されたのが、オリーブで心と体をととのえる「千年オリーブテラス for your wellness」だ。小豆島の未来に繋がるようなオリーヴの森をつくろうと、広大な農園には地中海から移植されたシンボルツリー「樹齢千年のオリーヴ大樹」を軸に、独自のオリーブ体験ができる環境が着々と拡大されている。

薄靄の海を渡って、日常と隔絶された時間へ

高松港からフェリーに乗って、瀬戸内海を渡る。この日、薄霧に包まれた視界を進んで、降り立ったのは小豆島の土庄港だ。港から車を走らせること10分、美しいオリーブの木が連なる「千年オリーブテラス for your wellness」に到着した。

 

ゲストの玄関口となる「The GATE LOUNGE」の裏手には、立派なオリーブの大木が佇む。訪れた人を見守るように、スペインから樹齢1000年を超えるオリーブの木が海を渡って移植された。

 

ここに来る人がオリーブを通して心身をととのえられるようにと、願いが込められたシンボルツリーだ。

「千年オリーブテラス for your wellness」を運営するのは、柳生敏宏さんと柳生忠勝さんの兄弟。「オリーヴ兄弟」との愛称で呼ばれ、小豆島のオリーブ文化の発展に尽力している。

 

柳生さんの父親は、小豆島のオリーブを原料にした化粧品の販売会社の創業者。

 

昔、台風の影響でオリーブの化粧品となる小豆島の原料が仕入れられなかった経験から、自分たちの手でオリーブの栽培をし、自社農園の拡大を行うことを決意した。

 

2003年から自社製造をスタート。オリーブのスキンケア商品からはじまり食用オリーブオイル、そして健康食品まで幅広く手がけている。

「樹齢千年のオリーヴ大樹」を植えて13年が経ち、ここは年間2万人の観光客が訪れる小豆島の人気スポットへ発展していった。

 

とはいえ、単にオリーブを見るだけでなく、オリーブについて多角的に体験してほしいと考えた柳生兄弟。

 

オリーブの魅力や効能をわかったうえで、商品を購入して欲しい。多くの人が殺到する観光エリアではなく、必要な人に必要な情報が届く。そんな場所にしたいと、体験価値を共有できる拠点の設計を建築会社「VUILD」に依頼した。

兄の柳生敏宏さんと弟の忠勝さん。ここで植えたオリーブが千年先も受け継がれていくこと、小豆島が健やかにあり続けていくことを願って「千年オリーブテラス for your wellness」を運営する。

「建築の民主化」で始まった建設プロジェクト

当初、ショップやカフェ、ハンドエステが楽しめる「箱型の建物」をメインに建設したいと依頼した柳生さん。しかし、VUILDの代表・秋吉浩気さんからは、「樹齢千年のオリーヴ大樹」や宿泊施設が交わる場所として「ハブ」のようなスポットをつくろうという提案が返ってきた。

 

さらに、秋吉さんは「樹齢千年のオリーヴ大樹」は、あえて隠すように置きたいと発案。これには柳生さんたちも驚いたが、それにはオリーブの木の“見え方”に理由があった。

車で訪問するゲストは、遠くからだんだんとオリーブの木に近づくため、木自体をどうしても小さく捉えてしまう。それが、とても勿体無い。間近で見ると細やかに重なった葉や立体的な構造で、その生命力に圧倒されるのに。

 

だったら、ハブとなる建物の出口から外に出た瞬間にオリーブの木と対峙し、その力強いエネルギーを目の当たりにしてもらおうと考えたのだ。

ハブとなる「The GATE LOUNGE」の建物は、「樹齢千年のオリーヴ大樹」に負けないくらいエネルギーに満ちた有機的な形をしている。

大きな丸太でチタン合金板の屋根を支えるダイナミックな構造。長く続く建築を目指し、外装は腐食しにくいジンクという合金で仕上げた。まるで今にも動き出しそうな、生命体そのものである。

主要な構造体には小豆島で育った檜を取り入れた。半割材と丸鼓材を交互に組み合わせることで、天井に美しいアーチが確立する。

 

島の外から木材を調達せずに、地産地消として島内で材料を賄うことにも大きな意味があった。施主の柳生さんたちが島をめぐって建材の調達場所に赴き、施主自らが皮剥ぎや乾燥、加工、塗装を行なったのだ。

 

ここに、VUILDの秋吉さんが言う「建築の民主化」がある。施主にも建築の工程から参加してもらうことで、完成した建物との距離感がぐっと縮まるのだ。

日が暮れてくると「The GATE LOUNGE」の窓から見える、幻想的な瀬戸内海と離島の姿。ここではオリーブを用いた多彩なドリンクが楽しめる。

小豆島の風景とつながる宿泊スペース

「The GATE LOUNGE」を出て森を少し歩くと、別棟のスモールヴィラ「The STAY」が現れる。ヴィラには「Misson(ミッション)」、「Lucca(ルッカ)」、「Manzanillo(マンザニロ)」とオリーブの名前を冠した3室があった。

「The STAY」の中に入ると、どの部屋も圧巻のシーフロント。大きな開口を設けた窓からは、小豆島の海が静かな波を寄せていた。

 

何もない贅沢さと静けさを知ってほしいと、部屋はすべてシンプルな造り。窓を開けた途端、海からの心地いい風が吹き込んでくる。

ベッドに体を預けて上を眺めると、ゆるやかな曲線を描いた天井のみが視界に入る。ここでは、オリーブによる「睡眠浴」をはじめ、マインドフルネスが体感できる。

 

柳生兄弟曰く「宿に泊まりに来て、いつの間にか眠ってしまったではもったいない。滞在することで、睡眠の質を高めるための儀式ができたら、とオリーブを軸にした睡眠浴を考えました」という。

 

そのため、快眠に進むためのサウンドメディテーションプログラムを制作。「樹齢千年のオリーヴ大樹」の幹に流れる水音や、葉の間からすり抜ける風の音など、小豆島だけの音を全身で浴びながら、しっかり深い眠りに向かえる。

部屋ではオリーブの葉を磁器に入れ、香りを楽しめる。蓋を開けて、小豆島のオリーブリーフの形状をじっくり観察する人も多い。

植物としてのオリーブの力にフォーカス

ときにはオリーブの粉末でお茶を点てて、海の景色とともにゆったりした時間の流れを味わうのも醍醐味。

 

小豆島のオリーブの葉は、ポリフェノールが豊富なので、体の調子をととのえるのにとても良い。まろやかな風味も飲みやすかった。

浴室に入ると、窓に広がるのは絵画のように幻想的な海と木々。窓の枠で風景を切り取ることで、自分と自然がよりディープに対峙できる。

日々の喧騒を離れ、ニュートラルな自分に立ち返るように、心がととのっていく。オリジナルのバスソルトは自社の美容オリーブオイルに数種の精油を用いたもの。細やかに用意されたアメニティがうれしい。

小豆島の山海の恵みをいただき、内観する時間へ

夕食に出たのは、小豆島に昔から伝わる「割子弁当」。この島では江戸時代からの伝統行事として「農村歌舞伎」が行われ、見物する際に小さく割った弁当箱を使うのが習わしだ。

 

台形の弁当箱は割子(わりご)と呼ばれ、古くは平安時代から使われてきたという。

 

酢飯、卵焼き、穴子を重ねて一晩置いた「石切り寿司」をはじめ、山海の幸が豊富な島の郷土料理がいただける。

朝食は小豆島産の白米を自分で炊いて、できたてをいただくスタイル。熱々のごはんに自社農園のエクストラバージンオリーブオイルと塩、醤油を数滴垂らすと、普段食べ慣れた白米がまったく別の物に。

白米とオリーブオイルの独特な味わいにハマって、「The GATE ROUNGE」でオリーブオイルを何本も買って帰る人がいるという。

 

五感がととのえられる場所では、味覚も鋭敏になる。そこで出逢った新しい味わいは、旅の思い出としてかけがえのないものになるだろう。

食事に過度なスタッフのサービスは入らず、自分でセッティングして、好きなタイミングで食べられるのが気楽でいい。終始、ここでは自分の心地いい時間がつくれるのだ。

 

何かに追われることも、何かを追うこともない。そんな自由な時間が、自分を内観する時間につながっていく。

表面的な観光ではなく、島の風土や伝統にも触れられる「千年オリーブテラス for your wellness」。

 

一枚の写真では収まりきらない風景がここにある。時間を気にせず、小豆島の自然とつながる場所。

凪のような静けさは、そのまま心象風景となって、旅から帰ったあとも何かの瞬間にふと思い出すことだろう。

pick up item

original table&stool

「森を切り開く開発ではなく、島の恵みを循環させる形でつくりたい」というオリーヴ兄弟の思いと、「建築の民主化」を掲げるVUILDの秋吉さんから生まれたのは、「地域にあるものを尊重して使い、次世代に残るものをつくる」ということ。

 

「The GATE ROUNGE」のビッグテーブルは、チュニジアの間伐材のオリーブを天板に活用。平面形状とリンクするように三又形状になったスツールは、ヒノキを用いて制作されたもの。

Editor’s Voice

  • 小豆島は離島のなかでも特別好きな島だ。初めて訪れたのは10年前。オリーブの収穫を手伝いに島を訪問して以来、のどかな島のとりこになった。しかし、宿が少なくて予約を取るのにはひと苦労。今回、千年オリーブテラスを初めて訪れて、こんなに地域と繋がれる循環型施設ができたのかと嬉しく思った。人が少ないからこそ体験できることが詰まっている。観光客のための型にハマった売店やカフェではなく、島と生き物が循環し、島外から訪れた人もその循環のサイクルの一部に入れる希少な場所。ここでは、自然界と自分をニュートラルにとらえることができる。

    Tokiko Nitta(Writer)

Staff Credit

Written by Tokiko Nitta

Photographed by Hinano Kimoto

About

泊まるように暮らす

Living as if you are staying here.

食べる、寝る、入浴する。
家と宿、それらがたとえ行為としては同じでも、旅先の宿に豊かさを感じるのはなぜなのか?
そんなひとつの問いから、yadoは生まれました。

家に居ながらにして、時間の移ろいや風景の心地よさを感じられる空間。
収納の徹底的な工夫による、ノイズのない心地よい余白……。
新鮮な高揚と圧倒的なくつろぎが同居する旅のような時間を日常にも。

個人住宅を通して、そんな日々をより身近に実現します。