Interview
Issue : 20
アーティスト・三浦 大地 | 旅も住まいも、たゆたう世界
ファッションデザインからアートクリエイションまで、さまざまなフィールドで活躍する三浦大地さんのご自宅を取材。区切りのない間取りに惚れ込み、愛犬と共に移り住んだという自宅には、固定概念を軽やかに飛び越えた、たゆたうように軽やかに暮らす彼の世界があった。
Profile
三浦 大地(DAICHI MIURA)
1983年、東京都生まれ。ファッションデザインを中心に活動する傍ら、広告、住居、化粧品など、幅広いジャンルでプロデュースを行う。ファッション好きな女の子のアイコン的キャラクターイラスト「Josie’s RUNWAY」は、さまざまなブランドとともにコラボレーションを続ける。環境問題や地域活性にも力を入れ、植物や鉱物を取り入れたソープやバスソルトブランド「EARTH AND STOVE」も手がける。愛犬のdanloと一緒に暮らす。
“泊まるように暮らす”人に聞く、暮らしの哲学。今回話を伺ったのはアーティストの三浦大地さん。
そろそろ旅に出たいと思った瞬間、もうそれは「土地に呼ばれた」とする。中学生でカナダを旅した三浦大地さんにとって、海外を放浪することは「今晩、何食べよう?」くらいに身近で身軽なもの。そんな彼の住まいは、三浦さんの旅と感性の軌跡そのもの。どれだけ世界中を旅しても、仕事が多忙を極めても、心と体をフラットに導くスイッチがそこかしこにあった。
「部屋を分断する意味がわからない」
間取りに惚れ込みスタートした大阪での暮らし
―東京生まれ、東京育ちの三浦さん。40年暮らした街から大阪に移ったキッカケはなんですか?
生まれてからずっと東京暮らしだったし、しかも1〜2年に1回は引っ越していた自分には、もう住みたい場所が都内になかったというのが正直なところ。自分は、若い頃からニューヨークのSOHOのような突き抜けた空間が好きなんです。でも、東京では細切れな間取りの家が多くて。広い敷地があるなら、広く使えばいいのにって思っていました。
―「○LDK」という概念が苦手で、移り住んだ今。住み心地は?
玄関からキッチン、リビング、ベッドルームと全て仕切りがなく、解放的で気に入っています。愛犬danloの目が見えなくなって、壁やドアが少ない家を探していた部分も大きかったので。部屋に段差がないのでdanloも快適そうです。
あと、大阪が楽しいです!引っ越して2年になりますが、この街は面白い。伝統も歴史もきれいも汚いも混沌として存在する。僕は家より街へのこだわりが強い気がします。常々、カルチャーがない街には住みたくないと思っていて。家の外に出るといろんな刺激がある街は楽しいですね。
「住まいにこだわりは何もない」という確かなこだわり
―住まいやインテリアでこだわっている部分はありますか?
自宅取材と聞いて「僕で大丈夫?」と、すぐに思いました。だって、本当に自宅にはこだわっていないから。「心の底からこれが好き」と思う家具に今まで一度も出会ったことがないので、ほとんどがオーダーメイドです。好きな形が売っていないので、自分でデザインして発注しています。
家具も引っ越しのたびに全て断捨離するほど執着がなくて。2tトラックに家具を乗せて、友人たちに譲っています。そうして、次の新しい家に合わせて再度インテリアを購入したり、つくったり。というか、その時の自分の好きなテイストに沿わせていく感じ。今の自宅は木や鉱石を取り入れた白っぽい世界ですが、次に引っ越しする時はきっともう違うんでしょうね。
―大理石やクリスタルの配置が印象的ですね。惹かれる理由はなんですか?
物心ついた頃から不思議と鉱石が好きなんです。自分が手がける塗香やリップバームといった商品にも、クリスタルを含ませるほど。揺るぎない何かに惹かれる。そばにあるだけで、自分が整っているのを感じるし、何より人間より遥かに長い時間をかけて形成された姿に安堵感を覚えるというか。地球上にはさまざまな種類の鉱石がありますが、自分はクリスタルが一番フラットに感じるので好きです。インテリアとしても。
心をフラットに、たゆたうように暮らす
ー「フラット」という言葉、三浦さんの生き方、暮らし方のキーワードなような。フラットさを大切にしている理由はなんですか?
“中庸(ちゅうよう)”という考え方が好きなんです。陰と陽のどちらに偏っても、ちゃんと真ん中に戻ってくることを大切にしている。そんな中で、自分をバランス良い場所に戻してくれるのが塩。とにかく、最強の存在だと思います。
日本では昔から通夜が終わったら、塩をまく習慣がありますが、これにはやはりワケがあると思う。京都や奈良の古い都でも、玄関に塩を盛っていますが、悪いものが入ってこない何かしらの結界をつくるのでしょう。
日本だけでなく、世界各地を見ても塩は浄化の存在だし、昔の人はそのパワーを知っていたと思います。実際、自分もとても浄化されるし、いろいろな感情がリセットされる。だから、玄関にも盛り塩をしています。はじめはきちんと八角を象っていたのですが、今ではドバッと器に盛っています。多ければ多いほどいい感覚。気に入った器に盛れば、その姿にも愛着が増す。
―植物が部屋にはありませんが、置かないのは何か理由が?
そうですね、僕の部屋には植物を一切置きません。切花って生きている時間が短いでしょう。そういう存在は、なにもこの部屋で生きなくてもいいと思っている。あと、ベッドフレームもない。これは、単に好きなデザインがないだけですが。なので、そのままマットを敷いて寝ています。リビングからベッドが丸見えですが、それも気にならないですね。
―同じく、絵も飾られていませんね。
仕事で絵を描いているのですが、部屋に絵は飾りません。自分の作品も、他の方の作品も。だって、絵ってすごいエネルギーでしょ。存在に圧倒される。だから、自分が生活する部屋にあると、そこに引っ張られるというか。同じ家具を長年使っていると、自分の気持ちが更新されないと感じるように、絵を置くことでそこに固執したくない。だから、制作するときは必ずアトリエに向かう。家のすぐそばにアトリエを借りているので、そこが作業現場です。
安価も高価も関係ない、という眺望
―確かに家具もシンプルなものが多いですね
フラットな感覚を大切にしたいから、リーズナブルな雑貨や家具も置けば、巨匠の名作とされる家具も置きます。高価な家具ばかりだと、空間も気持ちも重くなる気がして。体も心もどこか片方に偏らず、中心でバランスを取っているのが心地いい。高いから良いとか、安いから悪いといった感覚が自分にはありません。
その感覚は旅でも同じ。高級ホテルの良いところ、民宿の良いところ、ビジネスホテルの良いところ。それぞれに魅力があると思う。最近、気に入っているのは、屋久島にあるビジネスホテルです。スタッフさんのサービスが抜きん出て素晴らしいわけではなく、地元の人がやっている宿ですけどね。
とにかく、立地がいいし、景色がいいし、気の流れがいい。そして、温泉の質が素晴らしい。もう、これだけで十分です。過剰なサービスは要らないと最近つくづく思います。暮らすように泊まるには、ほっといてくれる感覚が必要。とはいえ、やっぱり高級ホテルのよさも十分知っているので、バランスよくいろいろな宿に泊まるわけです。
世界はすぐそば。今日、何食べる?と同じ感覚
ー 最後に、三浦さんにとって「旅」と「暮らし」の関係性は?
僕が初めて海外を旅したのは中学生の頃でした。姉がワーキングホリデーでカナダにいたので、1人で訪ねたんです。そこから、月2〜3回は海外に出る人生が始まりました。仕事やプライベートに関係なく。それが日常なので、自分にとっては特別なことではありません。今夜の食事を決める気軽さで、海外も国内も旅行している感じです。旅は決して非日常ではない。それが人生だと思っている。
yado's pick up item-1
玄関前にあるのは、自分の好きなものだけを置いた“祭壇”。時計、アクセサリー、メガネなど、外出するときに身につけるアイテムが並ぶなか、大きなホワイトセージが一際目を引いた。時々セージに火をつけては自分という器も物も浄化するんだそう。部屋に植物をおかない代わりに、“香り”で自然を取り入れる、一つのアイデアとしてオススメ。
yado's pick up item-2
三浦さんが手がける「EARTH AND STOVE」のディープヒーリングバスソルト。淡路島で製塩された塩をベースに、京都府産の天然ポップやクリスタルウォーターなどをブレンド。アロマ効果もあるから、ディフューザー代わりにと、盛塩に使用することもあるそう。
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Self Photo7
三浦大地が撮る旅の1コマ
Editor’s Voice
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三浦さんの住まいは、彼の中庸の精神を現す鏡そのものだった。何かに強く固執するわけでなく、とはいえ、思い入れがないわけじゃない。愛犬のことを思って東京から大阪に引っ越すことができる人だ。義理と人情を重んじる、どこか昭和気質な性分で、人間という生き物が大好きなのではないか。だからこそ、自分の思考や住居という器は、どこまでも身軽がいい。自分の中にも空間の中にも浮遊する、見えないけれど確かにそこにある重力のようなものを、感覚的に捉えている人のような気がした。
Tokiko Nitta(writer)
Staff Credit
Written by Tokiko Nitta
Photographed by Kazumasa Harada