Interior
Issue : 14
器とともに、食事をたのしむ。
こどもの代まで受け継ぎたい器、Awabi ware
旬の恵みを取り入れる、心地良い人と食卓を囲む、ご機嫌なBGMが流れている、そんな一つひとつが、“心豊かにする食事”をつくります。なかでも料理を引き立て、テーブルを彩る器は、日常使いでも心が動くかどうかで決めたいもの。そんな器の一つが、淡路島で生み出される「Awabi ware」です。
瓦屋根に、白いペンキで塗られた木造の平屋建て。築100年を超える元診療所だったというその建物は、まるで昔の小学校のよう。周りには田畑や野原が広がって、のどかという表現がぴったりの場所に「Awabi ware」のアトリエ兼ショップはありました。
器を求めて高鳴る胸には、いつの間にかノスタルジックな気分も入り混じり、玄関へと向かう足も自然に速くなります。中へ入るとさらに奥へと渡り廊下が続き、その先のショップスペースにはAwabi wareの作品が並びます。
親から子へ受け継ぎたい
“何もないオーラ”の美しさ
ショップスペースにも、一面のガラス窓から太陽の光が燦々と差し込み、古いテーブルや棚に並ぶ器たちに暮らしの空気感をまとわせます。器のコンセプトは「受け継ぐ器」。大切に扱い、いつか親から子へと受け継いでいけるような普遍的で、美しい器を追究しているのがAwabi wareを立ち上げた岡本純一さんです。
「特別な器じゃない、日用品としての器。それぞれの土地で、その時に生きる人たちのために作られる日用の器が民藝の道具であり、民衆の中から生まれた道具です。民藝には、宇宙や森、川などの自然と共にある美しさが存在しています。その美しさを、私は“何もないオーラ”と名付けました」。
現代において個性が追い求められ続けた結果、作為がまったくないものが失われてしまったと岡本さん。いい道具だったら作為に関係なく使い続けられる、それをもう一度作ることができるのか、民藝は可能なのかという問いからAwabi wareは始まりました。
「淡路島の美しさ」と書いてAwabi(あわび)、ware(ウェア=製品)。淡路島で江戸後期から明治期に栄えた珉平焼(淡路焼)の制作スタイルに学びながら、“何もないオーラ”を醸し出すプロダクトデザインを生み出しています。
先人が手がけた器を
現代のくらしに合わせて再編集
民藝にならう岡本さんは、まず先人が作った民藝の道具をベースにします。例えば、日本や朝鮮で、その昔よく使われていた首が長い器「長頸壺(ちょうけいつぼ)」。お酒や水を入れるのに使われていたというこの器を、岡本さんは現代で編集し、ベーシックなのに他にはない存在感をまとった花器に。
現代の暮らしに使いやすいデザインができたら石膏で型づくりを行い、型取りされたものに粘土を流し込み、釉薬をかけて焼成します。
完成までには、型作り、型取り、鋳込み師、生地師、素焼きする窯焚き師、アトリエでの仕上げの焼成をする職人と、担当が細かく分かれているそう。デザインの段階から最後まで、“自分の個性からどうやって逃げられるか”ということを考え、実現するため分業制にこだわっている、と岡本さん。
ショップの入り口に設置されたショーケースに並ぶのは、珉平焼(淡路焼)を中心に岡本さんが収集した古い器の数々。作り手ではなく、当時の使い手の気配を感じるような器は、“作品”ではなく“民藝”ならではの美しさがあります。
先人が手がけた器を現代に編集する作業中、自然と手が止まるところがある、と岡本さん。それは過去から「これでいいんだよ」と言われているような瞬間だそう。
唯一無二のカラーリングと
どんな空間にも溶け込むフォルム
Awabi wareの大きな特徴は、ハッとするようなカラーリング。白や黒、ネイビーなどベーシックカラーもある中で、こっくりとしたイエローやピンク、鮮やかなトルコブルー、絵画のようなツートーンは、一度見ればAwabi wareのものだとわかる色味が魅力的。
とはいえ、個性を削いだシンプルなフォルムだから、どんな空間にも馴染み、暮らしにスッと溶け込む使い勝手の良さがあります。
「個性を削ぎ落として削ぎ落として、どうしても残るものが個性。それは器の素材にもいえることですね」と岡本さん。
トルコブルーは暖色系や白が映え、料理を鮮やかに引き立てます。白みがかった柔らかなパープルは、空間を変える力があるのに、食材を活かす力もある器。ソテーしただけの野菜でも一品として成立し、ディスプレイするように収納しても空間を明るく引き立ててくれます。
そしてツートーンのお皿は、一見上級者向けのように見えて、意外に和食にも洋食にも合い、テーブルコーディネートを格上げしてくれるので、ぜひトライを。
工芸という大きな河の流れにつながる、ある時代の一つの民藝民芸になるべく、個性を削ぎ、受け継がれる日用品を目指して作り出されるAwabi wareの器。「何もないオーラ」に感じる存在感をキャッチしたら、それはその人の空間にきっと似合う器。そんな時は、思い切って普段使わないような色を選んでみてください。自宅の食卓を少しだけ非日常な雰囲気に演出すれば、1人での食事もおもてなしの時も、“豊かな食事“を楽しむことができるはず。
Editor’s Voice
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Awabi wareの器は、どこまでもシンプルでありながら、触れてみたいと思わせる不思議な魅力があります。それは岡本さんの少しの個性と、作為が何もない「ただそこにある」という存在感だと思います。どうしても離れ難く、連れ帰った長頸壺。思い切った黒ときなりのツートンカラーですが、驚くほどしっくりとわが家のリビングに色を添えてくれています。
Ritsuko Tsutsumi (writer)
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棚にずらりと並んでいる器たちはとても色とりどりで、はじめて見るような印象的なカラーリングだなと感じました。でも、ショップの入り口にあった花瓶やテーブルに置いた器を見た時、棚に並んでいた印象とは変わり、ささやかに存在感を放ちながらそこに馴染んでいる印象を受け、その時Awabi wareさんのこだわる”個性”を垣間見えた気がしました。
Akari Kuramoto (photo)
Staff Credit
Written by Ritsuko Tsutsumi
Photographed by Akari Kuramoto