Trip
Issue : 07
ISLAND LIVING | 自然を感じ、余白で遊ぶ贅沢な暮らし
開放的な空間に洗練されたインテリア、目と鼻の先に海が広がるロケーションが魅力の宿、ISLAND LIVING。
半年先まで予約が取れない空間に隠された、心地よい暮らしのtipsをみつけに足を運びました。
瀬戸内海に浮かぶ島々の中でも、最大の面積を誇る淡路島。明石海峡大橋を使って神戸から1時間の距離にありながら、まだまだ手付かずの自然が残る肥沃な土地、穏やかな気候、それらが生み出す豊かな食文化が魅力的で、ここ数年は感度の高いアーティストやフリーランスの移住者も増加中。この島に、2020年オープンしたのがISLAND LIVINGです。
海に抱かれるように、誰もが心を解き放てる場所
「“都心ではなく、心を解き放てる場所”を条件にしていたのですが、この物件はまさに理想の立地でした」。
本格的なオーブンや冷蔵庫を備えたキッチンでコーヒーを淹れながら、そう話してくれたのはISLAND LIVINGオーナーの小倉寛之さん。大阪市内で設計事務所「DRAWERS」を営むクリエイティブディレクターです。
パンデミックを機に、事務所から車で1時間程度の距離にリモートオフィスを作ろうといくつかの候補地を巡り、ピンときたというのが、のちにISLAND LIVINGとなる古民家でした。
「淡路島によくあるタイプの民家で、潮風による腐食を防ぐために構造は鉄筋コンクリートです。リノベーションした際にコンクリート壁は壊さずそのまま使っている部分も、重機で削られた痕をあえて残し、ペンキで塗って風合いを出している部分もあります。もともとの素材を活かしつつ、できるだけシンプルに造り替え、全体は白を基調にしています。
完成してみたら、スタッフだけのオフィスにするにはもったいないという声が出て、貸別荘にすることに。設計士は完成した物件を施主さんに引き渡したらその後の様子を知ることができませんが、ここなら滞在された方に使い勝手などの感想を聞くことができるし、オリジナル家具の経年変化を知ることもできる。デザイナーとしての視点からも有意義な存在なんです」。
通り抜ける風や差し込む光を目で愉しむ工夫を
かすかに波音が聞こえる細い道を入ると、民家の並びにひときわ目を引く建物が現れます。白い壁に大きな木製ドアが印象的で、訪れた人はエントランスのはめ込みガラスに浮かぶ「ISLAND LIVING」という文字を見つけ、きっと心躍りながら扉を開くはず。
玄関に入ると出迎えてくれるのは、リノベーション前のコンクリート素材を露わにした、風合い溢れる壁。思わず手で触れながらかつての面影を確かめたくなります。
一歩入ると目の前にはミニマムな階段が2階へと続き、それを中心に右にダイニングキッチン、左に薪ストーブと作り付けの大きなシェルフが迎えるリビングが広がり、この空間をどう楽しみ尽くそうかと思わず口元が緩みます。
どちらの部屋にも足元までの大きな窓が設けられ、そこから差し込む太陽の光が床に柔らかい影を描き、窓を開ければ潮風が、ジョーゼットの薄いカーテンを優しく揺らします。
「デザインコンセプトは“五感が蘇生していくこと”。風が抜ける心地よさや、太陽の光の暖かさ、波の音を感じてリラックスしてほしいから、風や光を可視化する仕掛けを取り入れて、開放性を大事にデザインしました。
都会だとどうしてもセキュリティ上守ることが大切になりますが、ここでは心も開放的に。壁や扉を設けていないのもそんな理由で、“○LDK”という固定概念は取り払っています」。
クリエイションのスイッチを押すアートなあしらい
色味を抑えたリビングでスパイスとなっているのがイーゼルと無造作に置かれた画材。
「インテリアとして捉えてもいいし、気ままに筆をとってみてもいい」と小倉さん。押し付けないけれど、「何か描いてみようか」という気にさせる演出がクリエイションのスイッチに触れ、自ずとポジティブな気分にしてくれます。
ちなみに、この日イーゼルに飾られていた油絵は小倉さんのお子さんが描いたもの。
「家族もこの場所をとても気に入っているので、時々一緒に訪れています。ここでは絵を描いたり、料理を作ったり、海に行ったりと、何にもとらわれずに過ごし、非日常感を大切にしています。特に、親子で一緒に料理をして一緒に食べることは、生きていると実感できるクリエイティブな行為。そういうことが自然にしたくなる、そんな空間にしています」。
海を望む特等席で、波音と風を感じる至福のバスタイムを。
2階に上がり、最初に目に飛び込んでくるのが東の窓に面して設置されたバスタブ。
フローリングの部屋に突然置かれたような斬新さに驚きますが、「家の中で一番閉鎖的なお風呂を外に出したらどうなるかという興味と、光や風、景色、手触りなど自然との関係性を突き詰めた結果」と小倉さん。
バスタブに身体を沈めて正面に広がる景色を眺め、そばで揺れる白いカーテンに風を感じ潮の香りや波音を愉しむひと時は、まさに淡路島の自然に浸る特等席。バスタブが置かれた空間にもやはり壁はなく、向かいのベッドルームとはひと続き。必要であればカーテンで仕切ることもできます。
風や光を感じ、ただここにいるだけで五感が喜ぶような心地よさと、洗練された遊びごころが特徴的なISLAND LIVING。
ここからはそんなISLAND LIVINGの空間やインテリアに学ぶ、暮らしのヒントをお届けします。
風通しの良い空間が、人間関係の風通しをつくる
「不思議なもので、壁がないと家族や人の心の壁もなくなって、ここに滞在すると親密になれるみたいですね」。
そんな小倉さんの言葉通り、ISLAND LIVINGの空間は、部屋の仕切りがほとんどありません。その代わりに、外との空間を仕切るカーテンや入浴中のプライバシーを守る仕切り布には、軽やかな布が用いられています。風を受け止め印象的に揺れる様子は、まるで風を“見て” いるよう。
そんな空間での過ごし方をつくっているのが “丸い” テーブル。ダイニングの中央に置かれたダイニングテーブルも、リビングに置かれたローテーブルもラウンドテーブル。
全員の表情がよく見えるテーブルで食事やお酒を楽しむと、なんだか人間関係まで風通しがよくなるのです。
例えば自宅だったら、壁を取っ払ったり、間取りを変えるのは難しくても、家具の選び方やレイアウトを工夫してみたり、ジョーゼットのような薄くて軽いカーテンを取り入れ、風の動きを愉しむのもおすすめ。
物理的にも、感覚的にも “風通し” を意識して、「気持ち良い」と感じられる瞬間をつくることで、心に余白が生まれるのかもしれません。
目的を決めない“余白”を散りばめる
ISLAND LIVINGの部屋の中で印象的だったのが、用途に余白のあるスツールや椅子が部屋中に点在していたこと。
小倉さんに聞くと、スツールは部屋中どこに動かしてもいいし、テーブルにしても、椅子にしても、使い方はゲスト次第だといいます。
自宅でのインテリア選びと考えると、つい実用性ばかりを考えてしまうもの。でも実は、使う側が想像力を働かせる余白のあるアイテムが、暮らしに潤いをもたらしてくれるのかもしれません。
スツールを窓辺に運んでコーヒーテーブルにしたり、花瓶を置いてみたり。時には便利な道具として、上に立って高いところにあるものに手を伸ばしてみたり。用途が1つではないものは、使い手次第でどんな風にも存在してくれます。あえて取り入れ、暮らしに “創造/想像” の瞬間を意図してつくってみたのなら、きっと日々をとらえる視点も変わるはず。
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ISLAND LIVINGの空間を語るのに欠かせないのが、天井からストンと落ちる、真っ白なカーテン。
風を通しながらもプライバシーを守れる絶妙な薄さと、空間をナチュラルにしすぎない上品な質感が存在感を醸し出しています。そのために、イタリアのメーカー「SATELLITE」のジョーゼット素材のものをオーダーとしたそう。天付きにして、少し引きずる長さにすることもポイント。
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子どものおもちゃは空間の雰囲気を壊してしまいがちですが、木のおもちゃなら、外に出しておいてもインテリアに馴染みます。木馬と輪投げは骨董市で購入したそう。輪投げの輪は元々は赤だったものを、空間に馴染むよう落ち着いたグレーにペイント。積み木やけん玉も木製で統一することで、まるでディスプレイのよう。
子どもがいるからと好みの空間を諦めるのではなく、折衷案は工夫次第。子どもも大人も居心地の良い空間を作ることができるのです。
ISLAND LIVINGで過ごすことができるのは、淡路島の自然に浸り心をとことん解放するひと時。そこには、暮らしを豊かにするヒントがたくさん散りばめられていました。
自然を肌で感じるだけでなく可視化すること、想像力を刺激する余白を取り入れること、風通しを意識すること。一見どれも暮らしに必要なことでないけれど、だからこそそれを大切にできる心の余白が、暮らしに豊かさを与えてくれるのだと教えてくれました。
Editor’s Voice
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今回の取材で象徴的なバスルームよりも印象に残っているのが、「壁のない空間では心の壁もなくなり、風通しが良いと人間関係の風通しも良くなる」という小倉さんのお話。わが家は年頃の子どもたちの個室がなくカーテンで仕切っているだけだけれど、確かに心の壁はない模様。風の通り道と余白をプラスして、日々の暮らしに穏やかな刺激を散りばめたいですね。
Ritsuko Tsutsumi / Writer
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窓を開けると大きく伸びやかに広がるカーテンが風を見せてくれました。その光景をカメラ越しに見ながら心地よい感覚で撮影をしたことがとても印象に残っています。扉のない空間で時間を共にする人たちの声や生活音など人の気配を感じながら過ごす時間を想像するだけで心豊かに感じ、いつかこの場所で親しい人たちを連れて余白の楽しみ方も体感したいと思いました。
Akari Kuramoto / Photographer
Staff Credit
Written by Ritsuko Tsutsumi
Photographed by Akari Kuramoto
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