Trip

Issue : 49

Park Hyatt Maldives Hadahaa|モルディブの自然と調和する水上生活

泊まるように暮らす人・谷尻誠が綴る旅エッセイ。第一弾の旅先は手つかずの自然が残る「モルディブ」。滞在を通して見えてきた、人と自然の繊細な調和、そして日常から切り離されていく感覚を自身が撮影した写真とともに紹介する。

Profile

谷尻誠

建築設計事務所「SUPPOSE DESIGN OFFICE」設立。国内外多数のインテリア・住宅・複合施設プロジェクトを手がける。穴吹デザイン専門学校特任講師、広島女学院大学客員教授、大阪芸術大学准教授。新しい考え方や関係性の発見をテーマに建築の可能性を提案し続けている。また、昨今は様々な事業を立ち上げる起業家としても活躍。22年4月にテレビ東京系列の「カンブリア宮殿」にも出演。今最も注目される、建築家。

  • 2023年夏、日本から遥か離れた島、モルディブを訪れた。

    目的は水上生活を体験するため。

     

    国際線で東京からシンガポール、シンガポールからマレ、そして国内線でマレからKooddoo(クドゥ)へと乗り継ぎ、ボートで揺られること30分。

    ようやく辿り着くのが、モルディブの島にある、Park Hyatt Maldives Hadahaa(パーク ハイアット モルディブ ハダハア)だ。

     

     

    平均気温28度、穏やかな気候と透明な海を持つ美しい島。

    その自然の豊かさを求めて、世界中から観光客が集まるという。

     

    しかしワンアイランド、ワンホテルという体験を手にするためには、少なからず時間という代償を払う必要がある。

    日本からは朝の便で出発したが、クドゥに到着した頃には深夜をまわっていた。

    移動に疲れ、傾れ込むようにベットに滑り込んだ。

     

     

    翌朝、目の前に広がる青い海をみて疲れがどこかにいったかのように感動する。

    透き通った海のなかには無数の魚が泳ぎ、珊瑚と白砂の美しさがどこまでもつづく。

    これまでに見たどの海よりも透明で、遠くまで続く白い砂浜と珊瑚が鮮やかに映えていた。

     

     

     

     

    水上コテージでの滞在を選んだ理由は、ただ美しい景色を楽しむだけでなく、水の上で暮らすという日常と離れた生活を体験してみたかったからだ。

     

    海の上に建物を建てるというのはどういうことだろう。

    資材の運搬、施工方法、運営、食材調達、どれをとっても大変であることは言うまでもないが、それを選ぶことによって、唯一無二の体験がここに作り出されている。

     

     

    モルディブに点在するリゾートの中でも、パーク ハイアット モルディブ ハダハアは自然保護と贅沢な体験を両立させている数少ない場所だろう。

    島内は、自然との共存を大切にした環境設計がなされている。

     

    小さな島には52部屋のヴィラがあり、各々の屋根にはソーラーパネルが設置されている。

    電力はこのソーラーパネルによってまかなわれ、水は海水と井戸水が利用されている。

    汚水は浄化された後に自然に還元される仕組みで、環境への負荷を最小限に抑えるための工夫が随所に見られる。

     

     

     

     

     

    さらに、島内では小規模な畑もあり、一部の食材はそこで自給している。

    しかし自給自足率はまだ低く、2日に1回のペースで船による食材の補給が行われているという。

     

    ゴミは可能な限りコンポストで土に還し、毎朝早くからビーチではスタッフたちがゴミを拾っている。

    その姿を見て、自然を守るために人間ができることについて改めて考えさせられた。

     

     

     

    この滞在を通じて、人間が自然に与える影響と、それをどう改善できるかを深く考える機会を得た。

    近代的な利便性を追求するあまり、私たちは自然をないがしろにしてしまっているのではないか。

    昔の暮らしも自然に負荷のない形で返すことが当たり前だった時代はきっと日本の水も綺麗だったのではないかと想像する。

    手間を省き、コストを抑えていく利便性を求めた結果、いまの環境が出来上がっているとしたならば、あらためて建築のできることがあるのではないかと考えていく必要がある。

     

     

     

     

     

    当たり前に享受しているものに対して、意識的に向き合い、考えを巡らせること。

    それが私たち一人ひとりに求められる責任であり、それをひとりひとりが意識できたならば、きっと美しい自然が戻ってくるだろう。

Staff Credit

Written & Photographed by Makoto Tanijiri

About

泊まるように暮らす

Living as if you are staying here.

食べる、寝る、入浴する。
家と宿、それらがたとえ行為としては同じでも、旅先の宿に豊かさを感じるのはなぜなのか?
そんなひとつの問いから、yadoは生まれました。

家に居ながらにして、時間の移ろいや風景の心地よさを感じられる空間。
収納の徹底的な工夫による、ノイズのない心地よい余白……。
新鮮な高揚と圧倒的なくつろぎが同居する旅のような時間を日常にも。

個人住宅を通して、そんな日々をより身近に実現します。