Interview

Issue : 27

デザイナー・酒井景都|デザイナー夫婦の“外と内が溶け合う”美術館のような家づくり

鎌倉の自然に囲まれた山の手に新居を構えたデザイナーの酒井景都さん。昔から世界のさまざまな住居やホテルのインテリアを見るのが好きで、今回の家づくりのアイデアはそんな長年の趣味の集大成だ。家で過ごしていても、緑豊かな自然と繋がれる住まいを目指して、構想から着工まで長い時間をかけて作り上げた新居を訪ねた。

Profile

酒井景都

1982年生まれ。中学時代に雑誌「Olive」でモデルとして活躍。慶應義塾大学在籍中に自身のファッションブランド「COLKINIKHA」をリリース。現在は「And Curtain Call」のデザイナーとして活躍する。プライベートでは、6歳の娘を持つ一児の母。現在第二子を妊娠中。

山と海があるから生まれた、開放的なデザイン

歩いてすぐそばに海が広がる鎌倉の高台に、酒井景都さんの新居ができたのは2022年6月。無類のキャンプ好きというご主人の希望で、アウトドアが楽しめる暮らしを求めた末、庭と山がつながり、海まで歩いて6分というこの場所にたどり着いた。

 

 

 

 

 

 

自宅にお邪魔すると、高い天窓と庭に面した大きな窓から光が注ぐ。酒井さんが窓を開けると、初夏の風が通り過ぎた。植物の青っぽい香りと、山の湿気をはらんだ空気。鳥の軽やかなさえずりも耳に心地よく響き、家のどこにいても自然を身近に感じさせてくれる。

採光があまり得られない敷地のため、天窓から自然光が入る施工に。天井を曲面にすることで、光が拡散する仕組み。

酒井さんがお気に入りの、四季を眺められる天窓。鎌倉山の木々が顔を覗かせ、ここからも自然の移り変わりがわかる。さっぱりした快晴の健やかさも、リズミカルな雨の音も、心が安らぐ星空も、起床した瞬間から物語のように始まる。

夫が引いた図面をもとに、家づくりがスタート

家の設計を依頼したのは一級建築事務所「KOTATSU+」。高断熱で高気密な建築を得意とし、ご主人と同郷・同学年だったのも手伝って、スムーズに家づくりが進んでいったそう。

 

「昔から建築やインテリアが好きだったので、いろんな写真素材を集めては“こういう風にしたい”と具体的に見せていました。特に、スキンケアブランドのAesopのシンプルな内装が好きで、世界中の店舗を参考にしています」

ウェブデザイナーのご主人は、さらに具体的に、自ら図面を引いて希望の間取りを伝えていったそう。部屋を区切ることなく、壁や扉はできるだけ少なく。段差を活用したスキップフロアで、縦に開放的な空間にした。

 

階段の両サイドには、ガラスの手すりを備えた。これで、二階からの視界を遮らない。「娘がどこにいてもなんとなく気配がある、どこで過ごしてもみんながつながっている、そんなシームレスな空間になりました」

 

 

 

ご主人と設計士が男性だからこそ、こだわったのはシャープになりすぎない柔らかさ。天井や床の段差をアールにすることで、空間の印象を和らげている。「このR面があるだけで、部屋は穏やかな印象になりました。子どもたちも自由に遊ばせられます」

 

また、柱や床、扉に使う木材の種類をすべて変えたことで、インテリアにメリハリが生まれた。床の木材は力強い木目のコントラストが楽しめるミモザを用いて、ソリッドすぎない空間を心がけたという。

玄関からリビングにつながる床は「モールテックス」を塗装。濃淡を自由に選べるモールテックスを淡い配色にして、空間の重々しさをなくした。また、薄く塗ってもコンクリートと同じ強度を保てるこの左官材は、夏に素足で過ごすのがとびきり心地いい。

玄関から始まる、美術館のようなアプローチ

酒井さんの住まいの魅力は、絵画のような切り取り方ができるところだ。玄関のドアを開けると、美術館のような階段が目に飛び込んでくる。

 

 

 

 

 

 

階段の先に置かれた植物の佇まいはとても詩的で、まるで1枚の絵のよう。平面と奥行きの使い方が絶妙なバランスなのだ。

ガラスの手すりを持って階段を降りてくる姿も、まるでどこかの物語。階段さえ単なる通路ではなく、それぞれのスポットが洗練された1つの空間として成り立っている。

 

ここに「世界の建築写真をみるのが趣味」という酒井さんの、写真という平面世界を捉えるセンスが反映されているように思う。

「若くて一人暮らしだったらこんな家に住みたい。猫と暮らすなら?海の目の前だったら?大所帯だったら?といろんなシチュエーションに合わせて自分の家を想像するのが、就寝前の趣味なんです」

 

旅に出て素敵な建築物に出会うと、いつの間にか住まいに取り入れられるスポットを探している。家を建てる必要がなかった頃から、常に物件を検索するほど“家”というものに興味があった。

 

酒井さんの長年の趣味と想像力から生まれた新居には、そんな世界の建築を旅した視点が詰まっている。

外と内がつながる住まいで手に入ったもの、そしてこれから

鎌倉に引っ越してきてから、酒井さんの朝はとても早くなった。

 

「子どもと一緒に21時くらいに寝てしまうので、必然的に朝早く目覚めてしまうのですが、太陽が昇ると寝室が明るくなるので、朝の時間が心地いいんです」

 

 

 

「時々、みんなが寝ているうちに海に出て、波の音を聴きながらコーヒーを飲むんです。一人だけの、たった10分。その時間は何ものにも代え難い、素晴らしい贈り物です」

 

 

 

海と山が身近にある生活。今後の楽しみ方を伺うと「庭の開拓」という言葉がすぐに返ってきた。アウトドアリビングとしてモルタルのテラスを庭に設け、リビングからの床とつなげるのが理想。そこで、自然と住まいの境界線はもっとなくなるはずだと話す。

 

内と外とが美しく溶け合う酒井さんの暮らし。自然と共にあるアイデアは、まだまだ尽きない。

pick up item #1

「SOLSO  FARM」で購入した植木鉢「SORSO FARM POT」。石をくり抜いた中に鉢を入れた、その佇まいはまるで1つのオブジェのよう。

pick up item #2

日がくれるとリビングの明かりが穏やかに灯る。そこで役立っているのが、角度を調節して照らす場所を変えられるライト「nora TYPE01」。充電式でコードがないため、庭にも持ち運べる。外でも内でも使えるインテリアがあることで、さらに野外との境界がない暮らしが楽しめそう。

  • Self Photo5

    酒井景都が撮る暮らしの1コマ

    1,2枚目は最近買ったもの。ピエールジャンヌレのラウンジチェアは、多様なリプロダクトの中からこの家に合うモダンな製品をチョイス。最近気になる器は”揺らぎのあるもの”。群馬県「うつわ ぬくもり」のボウルと、楽天で購入したという作家「原光弘さん」のコップ。3枚目はアトリエの一角。空間に合わせて描き下ろした油絵と、作業の合間に楽しむ「櫻井焙茶研究所」の茶葉たち。「Aesop」の写真集は、家づくりにおいて“世界観の共有ツール”として使用したそう。

/ 05

Editor’s Voice

  • 額縁のように切り取られた窓の向こうの自然や、床に映り込む風に揺れる植物の影。その美しさはしばし時を忘れて眺めてしまうほど。酒井さんのご自宅は美しい景色に溢れていた。話を聞いて意外だったのが、この空間には彼女がこれまで見てきた世界中の建築やインテリアのかなり細部のアイデアをも取り入れられていること。センス=インプット。酒井さんのご自宅と考え方から“美しさを分析すること”の大切さを学ばせていただいた。

    Chiaki Miyazawa(yado)

Staff Credit

Written by Tokiko Nitta

Photographed by Eichi Tano

  • For your information

    yadoが提案する “自然とつながる暮らし”。

    yado houseから“自然と溶け合う暮らし”をテーマにした住宅「Roofscape inspired by makina nakijin」が誕生。

    最大の特徴はプライベートの個室が、軒でつながり、自然と溶け込むランドスケープ。

     

    Roofscapeで、内と外が溶け合う旅先のような暮らしを。

About

泊まるように暮らす

Living as if you are staying here.

食べる、寝る、入浴する。
家と宿、それらがたとえ行為としては同じでも、旅先の宿に豊かさを感じるのはなぜなのか?
そんなひとつの問いから、yadoは生まれました。

家に居ながらにして、時間の移ろいや風景の心地よさを感じられる空間。
収納の徹底的な工夫による、ノイズのない心地よい余白……。
新鮮な高揚と圧倒的なくつろぎが同居する旅のような時間を日常にも。

個人住宅を通して、そんな日々をより身近に実現します。